朝日1_大学生の留学 裾野広げる取り組みを2023年10月17日
 コロナ禍の渡航制限がなくなり、大勢の大学生が海外留学に飛び立っている。一方、航空運賃の高騰に円安も重なって費用が上昇したため、留学を断念した学生も多い。
 グローバル化が進むなか、外の視点も併せ持つ人が増えることは、社会全体にとってプラスになる。家庭の経済状況に左右されず、なるべく多くの希望者が留学できることが望ましい。政府や産業界、そして大学は裾野を広げる取り組みを進めるべきだ。
 日本の若者は、留学を希望する割合が他国に比べて少ない。18年の調査では、欧米や韓国では5割以上だった留学希望者が、日本は3割程度だった。さらにコロナ禍でオンラインを通したやりとりに慣れたこともあるのか、学生の内向き志向に拍車がかかった、と感じている大学関係者は多い。
 そんななか、政府は財政難を理由に中長期の留学への支援に重点を置く。だが、期間は短くても貴重な経験になることには異論がないだろう。「身の回りだけでなく海外にも関心を向けさせたい」「学位取得や研究を目的とした中長期の留学へとつなげたい」として、短期留学の重要性を訴える大学も増えている。
 短期に参加する学生が減れば、中長期への挑戦者も減ってしまう恐れがある。政府は長い時間軸で効果を検証しつつ、短期留学への経済支援強化も検討する必要がある。
 政府の教育未来創造会議も4月の第2次提言で、留学する学生をコロナ禍前より増やす目標を打ち出した。6万人だった「長期留学」を33年までに15万人に、11万人だった「中短期留学」を23万人に増やすとする。
 政策目標に掲げるなら予算の充実もセットであるべきだ。その際、豊かな家庭の子女だけが留学に行ける「二極化」を広げないよう、家計による一定の基準を設ける選択肢もあるだろう。
 多くの学生が長期留学を敬遠する背景に、実質的に3年生の夏ごろ始まっている就職活動での出遅れや留年への不安があることも見逃せない。
 経済界には、留学経験者の採用枠を設けるなど工夫が求められる。留学は就職のマイナスにならず、歓迎されるとの理解が広がれば、若者たちが海外に向かう背中を押すことにつながる。多くの企業にとっても、留学を経て成長した学生は魅力的なはずだ。
 各大学にも、独自の奨学金を増やす以外にできることがある。カリキュラムを調整するなど、留年を心配せずに長く海外に出やすくなる対応に一層取り組んでほしい。
朝日2_緊迫するガザ 人道危機の回避尽くせ2023年10月17日
 民間人の命を守る手立てを断ち切ってはならない。軍事行動は踏みとどまり、むしろ着実に支援物資が届く態勢を整えるべきだ。
 イスラエルがパレスチナ自治区のガザ地区に対し、陸海空からの大規模な軍事作戦を準備している。
 「戦時内閣」をつくったネタニヤフ首相は、ガザを実効支配するハマスを過激派組織「イスラム国」になぞらえて「粉砕し、破壊する」と宣言した。36万人の予備役を招集し、「次の段階は近づいている」と述べた。
 先日のハマスによる攻撃は衝撃的だった。民間人を含め1400人が犠牲になったイスラエルの人々の悲しみと怒りは十分理解する。だが、残虐な行為に残酷な作戦で対抗するのは道理に反する。
 ガザの人道状況はすでに危機的だ。連日の空爆で多くの子どもを含む約2700人が死亡した。道路はがれきなどで寸断されている。イスラエルはガザへの電気や食料の供給を停止し、唯一の発電所の燃料も尽きた。病院も破壊され、医薬品も足りない。
 国連人権高等弁務官は、こうした封鎖を「国際人道法違反だ」と指摘していた。そのなか、イスラエル軍は北部の住民110万人に南部に退避するよう求めた。ガザの人口の約半分にあたる。
 だが、南部でも安全に避難できる場所や病院は、すでに人であふれている。世界保健機関は、治療を受けている患者にとって、退避勧告は「死刑宣告だ」と批判した。
 まずは国連などが求める、救援物資などを搬入する「人道回廊」を実現することが先決だ。イスラエル支持を明確にする米国のブリンケン国務長官も「民間人の被害を最小限にすべきだ」とし、関係国との協議を続けている。
 ガザを封鎖したまま地上侵攻を強行すれば、民間人の犠牲は桁違いに増えるだろう。国連の専門家が指摘するように、武装組織と市民を区別しない「集団的懲罰」ととられても仕方あるまい。退避しなかった住民はテロ組織の一員とみなし、攻撃を正当化するのならば、強引に過ぎる。
 国連のグテーレス事務総長は15日、ハマスに人質の即時解放を、イスラエルにはガザへの人道支援を認めるよう訴えた。「われわれは中東で奈落へのふちに立っている」と危機感をあらわにした。
 国連安保理は米ロなどの立場の違いから、流血を止める具体策を打ち出せないままだ。罪のない民間人の命が奪われてはならない。少なくともこの一点において、世界は一枚岩になる必要がある。
東京1_保護司の改革 担い手確保に知恵絞れ2023年10月17日
 刑務所を仮出所した人や非行少年の更生を支援する保護司の担い手不足が深刻だ。民間の篤志家で成り立つが、高齢化が進み、限界といえる状態に陥っている。人材確保に知恵を絞る必要がある。
 保護司は法相から委嘱された非常勤公務員。一般行政職である保護観察官とともに、保護観察の対象となった人に定期的に面会し、生活面や就労面の相談に乗る。報酬はなく、実質的にはボランティアといえる。
 法務省によると、全国で約4万7千人いる保護司のうち60代が40・3%、70代が38・5%。合わせて8割近くを60代以上が占める。1975年時点では60~70代は55・3%だったので、高齢化が一段と進んでいることが分かる。
 任期は2年間だが、再任が可能で平均年齢は65歳を超える。「再任時78歳未満」という年齢制限があり、今後10年以内に40%程度も退任する見通しだ。
 これは制度維持が危ぶまれる状態といえよう。法務省は有識者検討会を設けて対応を議論しているが、危機意識をより強め、担い手確保に全力を挙げてほしい。
 無報酬で最前線に立つ保護司制度は歴史的にも、明治期から慈善事業として刑事政策に組み入れられてきた経緯がある。
 「官民協働」の制度とはいえ、「官」が「民」の善意に過剰に依存してきたのが実態だ。
 定年退職後に保護司に就きたいと思っても、新任は「原則66歳以下」との規定がある。この年齢制限は見直す必要があるだろう。
 現役世代に期待するなら、無報酬という待遇面も再考を要する。実際に保護司からは「適任者がいても、無報酬であるという説明がしづらい」との声がある。報酬制の導入も検討すべきだ。
 一方で、ボランティアという崇高な社会貢献の取り組みと認識されている面も大きい。無給ゆえに対象者やその家族も心を開き、つながりを保てるとの声もある。
 ただ、保護司会の運営に必要な会費など金銭負担も求められる。無給なのに金銭的な「持ち出し」があっては、誰もが尻込みしてしまうのではないか。やはり待遇改善が必要なのは間違いない。
 ウェブ会議などでデジタル化を進め、負担を軽くすることも当然である。活動の意義を社会に広く発信する広報活動などにも力を入れなければならない。
東京2_ロ朝武器取引 自ら制裁に反するとは2023年10月17日
 北朝鮮がロシアに対して、ウクライナ侵攻で使う弾薬や軍需品などコンテナ千個分以上を提供したと、米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官が発表した。
 北朝鮮による武器輸出は、国連安全保障理事会が核・ミサイル開発を理由に採択した複数の制裁決議で全面的に禁止されている。決議に賛成したロシアが自ら制裁に違反するとは言語道断だ。断じて許されてはならない。
 カービー氏は9月7日~10月1日に撮影した衛星画像を交え、コンテナが北朝鮮北東部の羅津(ラジン)港=写真、2010年撮影=からロシア極東沿海地方のドゥナイに海路で運ばれ、ウクライナ国境付近の弾薬庫まで鉄道輸送されたと説明した。ロシアが北朝鮮に軍事支援を始めた可能性にも言及した。
 同氏によれば、北朝鮮は武器輸出の見返りとして、弾道ミサイル製造装置などの技術支援を求めているという。ミサイル関連技術が北朝鮮に供与されれば、ロシアは北朝鮮に対する制裁履行の義務に二重に違反することになる。
 安保理常任理事国にふさわしい振る舞いとはとても思えない。
 ロ朝両国は12日に国交樹立75年を迎え、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は祝電を交換した。
 プーチン氏が9月の正恩氏との首脳会談に言及して「ロ朝関係が全ての方面で発展し続けていることを満足に思う」と伝えたのに対し、正恩氏はウクライナ侵攻でのロシアの勝利に期待を示した。
 しかし、世界の平和を脅かす独裁者同士が友好関係を強調すればするほど、国際社会の反発を招くだけではないのか。
 イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘を巡り、ロシアのネベンジャ国連大使は「安保理は流血に終止符を打つため、行動しなくてはならない」として人道的停戦を求める決議案を示したが、ウクライナ侵攻を続けるロシアが「人道」を語るとは笑止千万だ。
 安保理決議に背を向ける武器取引をこれ以上許してはならない。日本政府は欧米各国をはじめ国際社会と声をそろえ、ロ朝両国に粘り強く訴え続ける必要がある。
読売1_デジタル行革 政府クラウドの構想は万全か2023年10月17日
 行政サービスのうち、何がデジタル化にふさわしい分野か、何が人手や手間をかけて取り組むべき事柄か、効果や適否を見極める必要がある。
 政府が「デジタル行財政改革会議」の初会合を開き、交通や教育、介護などの分野でデジタル化を進め、行財政の効率化につなげていく方針を確認した。
 この会議は、デジタル化を目玉政策に掲げる岸田首相の強い意向で設置された。デジタル庁や行政改革推進会議などを束ねる「司令塔」の役割を果たすというが、屋上屋との指摘も出ている。
 行政改革が狙いなのに、会議が乱立するようでは本末転倒だ。政府は、既存の組織や会議体の統廃合を検討すべきだ。
 デジタル行財政改革会議に課せられた重要な役割が、政府と全ての地方自治体のシステムを共通化し、共同で運用する「政府クラウド」の整備だ。
 各省庁や各自治体が個別に構築しているネットワークを一本化することで、例えば、自治体ごとに行っている児童相談所の電話相談業務を、国が一括して担うことなどを想定しているという。
 ただ、都市部と過疎地域では相談内容は異なるだろう。国に、行き届いた相談が可能なのか。
 政府は2025年度末の政府クラウドの実現を目指し、現在、これを運用する企業の選定に乗り出しているが、名乗りを上げているのはほとんどが米国の大手IT企業で、国内企業は少ない。
 政府クラウドが整備されれば、省庁や自治体は年金、医療、納税状況など多くの個人情報にアクセスできるようになる。
 機微に触れる情報システムの運用を、ほとんど全て海外企業に委ねていいのか。システムに不具合が生じた場合、全国で行政サービスが停止する懸念も拭えない。
 政府はクラウドのリスクを洗い出し、活用方法を見定めねばならない。安全性を担保し、国民の理解を得ることが、政府クラウドの運用の大前提となろう。
 また、会議では、個人が自家用車で乗客を運ぶ「ライドシェア」の導入も検討する。利用者がスマホのアプリで、タクシーのような業務を副業でしている人の車を呼ぶ仕組みを想定している。
 タクシーの運転手不足に対応する狙いがあるが、運転を生業としている人と異なり、副業では、運転手も乗客も犯罪に巻き込まれた場合、どう対応できるのか。事故が起きた際の補償も重要な課題だ。慎重な検討が欠かせない。
読売2_内戦下の災害 国民に惨禍もたらす統治不全2023年10月17日
 内戦などで政府が機能していない国では、災害の被害も、国民の痛手もより大きくなる。破綻国家にはこうしたリスクがあることを、リビアの悲劇が如実に示している。
 北アフリカのリビアで9月、大規模な洪水が発生し、被害は今も広がっている。死者4300人以上、行方不明者は8500人以上に達し、衛生状態の悪化によって疫病も流行しているという。
 国連や国際支援団体は、各国による人道支援をとりまとめ、被災者に食料や薬などが確実に届くよう取り組みを強めてほしい。
 リビアは、2011年にカダフィ長期独裁政権が倒れた後、イスラム過激派が入り込むなど、混乱に陥った。現在も、西部を支配する暫定政権と、東部を拠点とする軍事組織「リビア国民軍」が内戦を繰り広げている。
 今回、洪水被害が最も深刻だったのは東部の町デルナで、「国民軍」の支配地域にある。豪雨によって近郊の二つのダムが決壊し、濁流が市街地をのみ込んだ。
 決壊したダムについては、専門家が何年も前から、「必要な改修が行われておらず、危険な状態にある」と警告してきた。住民に対する情報提供や避難の呼びかけも不十分だったとされる。
 内戦と統治機能の 麻痺 まひ により、社会基盤(インフラ)の安全管理が置き去りにされ、災害時の避難体制も整えられていなかったことは明らかだ。「人災」の側面が大きいと言わざるを得ない。
 内戦が続くシリアの北西部でも今年2月、トルコを震源とする大地震で深刻な被害が出た。長年の戦闘によって病院が破壊され、医薬品も不足しているため、負傷者の治療を十分にできなかった。
 北西部は反体制派が支配していることから、アサド政権は救援を怠っただけでなく、隣国トルコから被災地への物資の搬入も妨害した。道路の多くは内戦や地震で損傷し、輸送は困難を極めた。
 イスラム主義勢力タリバンが支配するアフガニスタンでも、昨年6月の大地震で、被災地への救援が遅れた。今月7日の地震でも、被害が拡大している。
 タリバンは、親米政権時代に行政を支えた人材を排除し続け、恐怖政治を敷いている。これでは、防災や被災者支援の体制作りは進まないだろう。
 内戦や民生無視の強権統治は、国の発展を妨げ、国民に大きな災厄をもたらす。リビアやシリア、アフガンの当事者は、その愚かさを自覚しなければならない。
産経1_五輪招致の醜態 JOCの無力が目に余る2023年10月17日
国際オリンピック委員会(IOC)はインドのムンバイで開いた総会で、2030年と34年の冬季五輪開催地を同時決定することを正式に決めた。
候補都市は11月末にIOC理事会で絞り込み、来夏、パリで開く総会で決定する。30年大会招致を断念した札幌市に時間の猶予はなく、34年大会招致も絶望的となった。
同時決定の方針が固まったことに、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長はムンバイで「えっ、という感じ。(同時決定を)議論するのは予想外だった」と述べた。
札幌市の秋元克広市長も「山下会長から同時決定の可能性は少ないと聞いていたので、少し驚いた」と語った。
驚いたのは、こちらの方だ。これほど大事な情報を得られないまま招致の戦略を協議していたことに対してである。
山下、秋元両氏が席を並べて会見し、30年大会の招致断念と34年以降の招致を目指すと明らかにしたのは直近の11日だ。山下氏はこの会見でも同時決定の「可能性は低い」と述べていたが、わずか数日で今後の招致目標は霧散したことになる。
IOCの情報を取得するのはJOCやIOC委員の職責に頼るしかない。JOCの会長であり、IOC委員でもある山下氏は、IOCの判断に「読み違えたのは事実」とも述べたが、そんな言葉で済ますほど軽い失態ではあるまい。
30年大会招致断念の会見では市民の理解が得られなかった要因に東京五輪を巡る汚職、談合事件の影響も挙げられたが、山下氏からは東京五輪の当事者としての明確な猛省の弁を聞くことはできなかった。
JOCの主たる業務は選手の育成と強化、国際総合大会への選手派遣、オリンピック・ムーブメントの普及・推進である。選手強化は各競技団体が、派遣事業は事務方が担うなら、幹部の主務は五輪運動の意義を語り広めることだろう。
札幌への招致断念について山下氏は「明確な大会開催の意義が見えないといったところもあった」と述べた。それを語るのがJOC会長の職責ではないのか。その自覚はあるか。
日本は五輪開催にふさわしい国でありたいと考える。そのため現体制は一度解体し、出直すべきではないか。
産経2_G20財務相会議 中東リスクにも黙るのか2023年10月17日
イスラム原理主義組織ハマスによるイスラエルへの大規模奇襲攻撃が招いた中東情勢の悪化は、日本を含む世界経済にとっても重大なリスクである。
これにより原油価格が高騰すれば、ロシアによるウクライナ侵略や中国経済の減速などで揺らぎ続ける世界経済が一段と下押しされる恐れがある。
そういう局面だからこそ、経済においても国際社会は危機意識を共有し、事態の収束を促す明確な発信が求められる。
残念なのは、20カ国・地域(G20)の枠組みに、その役割がほとんど望めないことだ。
13日に閉幕したG20財務相・中央銀行総裁会議では、共同声明にハマスのイスラエル攻撃を巡る直接の言及がなかった。ウクライナを侵略するロシアへの名指しの批判もなかった。
いずれにおいても、地政学的なリスクにはだんまりを決め込む。世界経済に深刻な影響を及ぼす問題で結束できないのがG20の現実だ。これでは、G20の存在意義がますます希薄になったと断じざるを得まい。
G20の足並みの乱れはロシアの侵略以降、さらに顕著となった。財務相会議もロシアの扱いを巡る対立で共同声明を採択できない会合が続いていた。今回の共同声明は7会合ぶりだ。
声明では「世界中の戦争と紛争による甚大な人的被害と悪影響」への懸念表明にとどめ、具体的批判は避けた。侵略国のロシアやロシア寄りの中国、アラブの盟主を任じるサウジアラビアなどが参加するG20の場ではこれが限界なのか。
討議ではハマス非難の発言もあったという。それでも共同声明で名指しの批判をしないのは分断や対立の深さを物語る。
声明は「G20は地政学的かつ安全保障上の問題を解決する枠組みではない」としつつも、これらが「世界経済に重大な影響を与え得る」とも指摘した。これだけでは事態に対処するG20の行動にも期待が持てない。
その点で日本が重視すべきは先進7カ国(G7)だろう。
G20に先立って行われたG7財務相・中央銀行総裁会議は共同声明に「ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃を断固として非難し、イスラエル国民と連帯する」と記した。日本はG7と連携しつつ、それ以外の国との協調も働きかける。これを外交姿勢の基本とすべきである。
毎日1_日本学術会議と政府 任命拒否解決し正常化を2023年10月17日
 政治家と科学者がにらみ合っているようでは、日本が直面する課題の解決はおぼつかない。
 日本学術会議の新体制が始動した。会員の半数が改選され、新しい会長に光石衛(まもる)・東京大名誉教授が選出された。
 菅義偉前首相は3年前、法学者ら6人を任命しなかった。学術会議は理由を開示し任命するよう求め続けた。だが菅氏は応じず、対立が深刻化した。
 岸田文雄首相は今回、学術会議が提出した105人の候補全員を任命した。ここには6人は含まれていない。
 3年前に任命されるべきだった人々を新会員候補とするのは筋が通らない、というのが学術会議の主張である。光石会長は、任命拒否問題は解決していないとの立場を示している。
 一方の岸田氏は「当時の首相が判断したもの」と、「我関せず」の態度を決め込んでいる。
 懸念されるのは、対立の長期化による機能不全だ。
 不誠実な対応でうやむやに済ませようとしている政府に責任があることは言うまでもない。学術会議にも事態打開に向けた取り組みが求められる。
 8月末には学術会議のあり方に関する政府の有識者懇談会が発足した。国を代表するアカデミーの役割や、使命を果たすのにふさわしい形態を探るという。
 諸外国のアカデミーの運営形態は多様だ。王室や議会に属する組織もあれば、法人格を持ち、寄付金や公的資金で活動する組織もある。その国の成り立ちや歴史、文化と深く関わっている。
 学術会議は長期的、俯瞰(ふかん)的な知見を政策に反映させる目的で1949年に新設された。国の機関だが独立性が法律で定められ、軍事研究や生命倫理などに関する見解を発信してきた。
 政治との距離を保ちつつ、幅広く国民から支持される組織を目指さなければならない。
 気候変動による環境悪化や災害の多発、安全保障環境の変化など、学術の知見が求められる政治課題は山積している。人工知能(AI)時代への対応も急務だ。
 日本の針路を示す上で政府と学術会議の連携は欠かせない。正常化への道を模索する時だ。
毎日2_細田氏の記者会見 議長の権威を失墜させた2023年10月17日
 国会は、全国民を代表する議員が、重要課題について審議する「言論の府」であり、国権の最高機関だ。そのトップである衆院議長が、自らの疑惑について国民への説明責任を果たそうとせず、権威を失墜させた。
 細田博之氏が記者会見し、体調不良のため衆院議長を辞任すると表明した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係や、セクハラ疑惑について初めて公の場で語ったが、いずれも否定し、開き直ったような態度に終始した。
 教団との関係では、関連団体の会合に8回出席したことを文書で認めている。会見では「特別な関係はない。呼ばれれば出るという程度」と問題を矮小(わいしょう)化した。参院選で、教団票の差配に関与したのではないかとの指摘にも「一切、関わっていない」と語った。
 現実には、多くの自民党議員らが教団と接点を持ったことで「広告塔」としての役割を果たし、お墨付きを与える形となった。悪質な献金勧誘など被害の拡大につながり、政治への信頼を損ねたのではないか。だが、細田氏の説明からは、政治の信頼を傷つけたことへの反省の弁は聞かれなかった。
 週刊誌が報じた女性記者らへのセクハラ疑惑については、「セクハラを受けたという人が出て初めて『#MeToo』(運動)が成立する。(訴えが)一件もない。単なるうわさ話」「私の覚えがないのに、あったように言われるのは、男性に対するハラスメントだ」と潔白を主張した。
 セクハラは客観的な証拠を提示しにくい場合が多い。訴えても、相手に事実関係を否定され、被害者がバッシングを受けて2次被害に遭うケースも珍しくない。
 セクハラの実態に対する認識の薄さを感じざるを得ない。岸田文雄首相も「名乗り出る人がいなければセクハラはないという考えは適切ではない」と語った。
 会見は、参加者や所要時間の制限付きで開かれ、最後は質問が相次ぐ中で打ち切られた。国民の疑問に真摯(しんし)に答えようとする姿勢からは程遠い。
 議長退任後も議員を続け、次期衆院選にも立候補する意向という。「三権の長」としてふさわしくないだけでなく、このままでは議員としての資質すら疑われる。
琉球_性別変更要件 違憲 手術「強制」は撤廃せよ2023年10月17日
 誰もが生きやすい社会に向けた一歩となる判断だ。  性同一性障害のある人が戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術が必要となる性同一性障害特例法の規定が憲法に違反するかが論点となった審判で、静岡家裁浜松支部は「必要性、合理性を欠く」と、憲法違反で無効とする初の判断を示した。
 2004年に施行された特例法は、自認する性別が出生時と異なる人などが戸籍上の性別を変更する要件を定めている。2人以上の医師から性同一性障害と診断を受けた上で(1)18歳以上であること(2)現に婚姻をしていないこと(3)現に未成年の子がいないこと(4)生殖腺がない、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること(5)変更後の性別の性器に似た外観があること―を全て満たす必要がある。このうち(4)と(5)は「手術要件」とされ、事実上、手術を求める内容だ。
 審判では、生殖能力をなくす手術を求める規定が、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するかが論点となった。
 家裁浜松支部は審判理由で、「手術は身体への強度の侵襲であり、手術を受けるかを決める自由は憲法13条で保障される」と指摘。「一律に生殖腺除去手術を求めることは必要性・合理性を欠くとの疑問を禁じ得ない」とし、規定は「違憲無効」との判断を示した。
 「手術要件」は事実上、性別適合手術を強制するものであり、本人が望まない手術の強制は、明らかな人権侵害だ。家裁浜松支部の判断は妥当であり、違憲である規定は直ちに撤廃すべきだ。
 世界保健機関(WHO)など国連の各機関は、14年「強制・強要された、または不本意な断種の廃絶を求める共同声明」を発表、本人の同意に基づかない医療処置は、人権侵害として強く非難している。性同一性障害学会など関係団体からも廃止を含めた法改正や新たな法整備を求める声が相次いでいる。
 性別変更の手術要件を巡る家事審判では、最高裁大法廷の決定が近く出される見通しだ。最高裁は19年の決定で性別変更の要件を「合憲」としたが、将来的に変わる可能性も示唆している。特例法制定時と比べ、性同一性障害や性的少数者への理解は大きく進展している。家裁浜松支部の審判理由でも「急激な変化を避けることも、規定の目的の一つ」としながらも「社会的状況の変化を踏まえると、配慮すべき変化の急激さも緩和されたとみることができる」とした。
 司法統計などによると、特例法に基づき戸籍上の性別を変更した人は、20年末までに1万人を超えた。厳しい要件が壁となり、性別変更を諦める人も多い可能性がある。
 自分らしく生きやすい社会において、誰かが取り残されるようなことがあってはならない。最高裁の判断に注目したい。
赤旗_非正規の待遇改善2023年10月17日
権利守るルール 法制化が急務
 非正規雇用の労働者は20年間で1・5倍に増え、今や労働者の4割を占めます。厚生労働省の調査で非正規の賃金は正社員の7割以下です。この格差が、日本を「賃金が上がらない国」にしてしまった最大の要因です。日本共産党は、経済の長期停滞と暮らしの困難を打開するための「経済再生プラン」で、非正規ワーカー待遇改善法の制定を提案しています。非正規の抜本的な待遇改善は、正規化を促進する力にもなります。
国際基準に基づく制度を
 岸田文雄首相は「コストカット型経済」から転換すると言います。しかし、歴代の自民党政権が財界・大企業の言いなりになって賃金が上がらない構造をつくり上げたことへの反省はありません。
 1999年に派遣労働が原則自由化されるなどして雇用のルールが次々に壊され、非正規雇用が拡大し続けました。労働法を、非正規で働く人たちの権利を守り、雇用主に責任を果たさせるものに改めなければなりません。
 欧州諸国では非正規雇用の増大に際して「同一価値労働同一賃金」「均等待遇」など労働者保護を図る動きが強まっています。非正規ワーカー待遇改善法の提案は、欧州連合(EU)や国際労働機関(ILO)条約などで確立している国際基準を踏まえたものです。
 雇用は、期間の定めのない直接雇用が大原則です。有期雇用や派遣は合理的理由がある場合の臨時的・一時的業務に限定するのが国際基準です。
 有期や派遣に期間の制限を設け、超えた場合は正規雇用にすることを厳守させ、違法・脱法的な解雇・雇い止めは厳しく取り締まることが不可欠です。
 非正規雇用の7割は女性であり、男女の賃金格差がなくならない要因になっています。企業ごとの男女の賃金格差公表が2022年に始まりました。正規・非正規の割合や雇用形態による賃金格差の公示も義務づけるべきです。
 地方の非正規公務員は112万人を超え、多くが低賃金・不安定雇用です。待遇改善は国や自治体の責務です。時給を1500円以上に引き上げることが急務です。希望者が正職員になれる仕組みの整備と財政措置が必要です。
 雇い主の指揮・命令で働いているのに、個人事業主の形をとっていることを理由に、労働者の権利を認められないことが横行しています。単発の仕事を請け負う食事配達などのギグワーカー、フリーの契約を結んで働く人、ウェブ上の仲介サービスを通じて仕事を請け負うクラウドワーカーも権利を守られなければなりません。
ギグワーカー、フリーも
 労災補償の実現・拡充はギグワーカーやフリーランスの切実な要求です。保険料負担を含めて企業が労災に責任を負う仕組みが求められています。
 ギグワーカー、フリーランス、クラウドワーカーに団結権、団体交渉権、ストライキ権を保障し、賃金の最低保障や休業手当などを制度化することも重要です。
 飲食店やコンビニなどで交代制のシフトに入って働く労働者は、使用者による一方的な仕事のキャンセルで最悪の場合、無給になることがあります。賃金の最低保障や休業手当の支給を労働契約に明記させることをはじめ権利保護のルールが欠かせません。